寒い日に 暑い夏の思い出話


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七月某日、とある山奥の斜面にぽっかりと口を開けた洞窟の中で、小生は腹ばいに成って斜面を登っていた。

洞窟は入り口こそ大人が屈んで入れる大きさだが、奥に行くに連れ急激に狭くなっていた。平均縦横1メートル程だろうか、奥行きはどの位だろう、途中直角とまではいかないが、急な勾配になっていて陽の光は全く届かなく成る。

頭をぶつけないように、首を回し頭上のヘッドライトで辺りを確認すると、濃密な湿気の為か壁一面水滴で一杯だ。 

「のそり・・・」と視界の端で何かが動く、恐る恐る確認すると、大きなガマガエルがのそのそと歩いている。少し動いては止まり、動くのを忘れたのかと思った頃、またのそりと移動して行く。さらに岩肌の隙間に溢れた樹の根には、カマドウマが列を成して息をひそめている。よくよく見ると小さな蛾も何匹か岩肌に留まっている。蛾の羽に着いた大量の水滴がまるで宝石の様にキラキラと輝いている。

ここにはここの、時間の流れが有るような感覚になってくる。

聞こえるのは自分の呼吸音と、腹ばいに進む音だけ。

洞窟内に入って直ぐは、迫ってくるような岩壁の圧迫感に恐怖したが、しばらくすると、何かに包まれている様な奇妙な安堵感が出てくる。そしてまた急に不安になり、しばらくしてまた安堵する。それを繰り返しながら進んで行くと、岩肌の一部に白い石英脈の筋が見えて来る。酸化鉄の赤い筋も見える。

更に奥へ進むと、黒と白の柔らかい土壁の行き止まり。その壁面を注意深くヘッドライトで照らすとカチリと小さな光の反射が目に飛び込んでくる。

注意深く光の周りの土を剥ぐ。次の瞬間、複数の光の破片がザザザッ。

落ちた塊を拾い上げ、泥で覆われた面を軍手で拭うと、その面は一層輝きを増した。

初めてガマが開いた日の話。


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